オペレーションの基本【決済】をわかりやすく解説
外資金融オペレーションについて調べると、必ずといってもおかしくないほど出てくる業務が “決済” ではないでしょうか。
でも、決済って何でしょうか? オペレーションの決済部門って何をしているのでしょうか?
日銀の公表資料によると
私たちは、日々、様々な経済取引(多くの場合、「お金」と「もの」や「サービス」との交換を約束し合うこと)を行っています。取引を行うと、お金を支払ったり品物等を引き渡したりする義務(取引の相手側からみればそれらを受け取る権利)が生じます。これらの義務を債務と呼び、相手方の権利を債権と呼びます。決済とは、一般的には、これら債権・債務のうちお金に関するものについて、実際にお金の受払をして債権・債務を解消することをいいます
と、あります。
、、、ん? よくわからないですね(笑)
実際にお金の受払をして債権・債務を解消することという最後の部分を噛み砕くと、
”お金”と”もの”の交換を完了させることと言い換えることができます。
”もの” に関しては、コンビニのおにぎりでも、マンションのような不動産でも、株や債券などの金融商品でも、お金によって得られる対価であれば何でも当てはまります。
私たちは日常生活で、多くの経済活動を行っています。経済活動とはお金を払って、ものを受け取る。又はものを差し出してお金を受け取ることです。
この時の過程において、取引の約束をする行為と、決済が必ずおこります。
ここで大切なポイントは、この2つの行為の間には時差がある、というところです。
どういうことでしょうか?
例えば、コンビニで缶コーヒーを買う場合、レジに商品を持っていき、バーコードを読み込み、値段が表示され、お金を払い、缶コーヒーを受け取ります。
この商品をレジに持って行った段階で、行為を取引を約束する行為とします。そして実際にお金を払い缶コーヒーが自分のものになった段階で決済が完了します。
このケースですと、取引の約束と決済が“ほぼ”同時に行われるため、あまり時差を実感しないかもしれません。
ではカフェでコーヒーを飲む場合はどうでしょうか。
店に入り、席につきます。店員さんが来て、コーヒーを注文します。この段階で取引の約束が行われたといえます。コーヒーが席まで運ばれ、リラックスしながら飲み、席をたちます。レジに行きお会計をします。ここでお金を払い、決済完了です。
ここではカフェの滞在時間分、時差がありますね。
一般的な経済行為では、この時差が“ほぼ”ないか、あっても数分程度なので、実感することはないように思えます。
では、金融商品ではどうでしょうか。
とある証券会社Aのトレーダーがトヨタの株を100株購入したいとします。
注文を市場に出すと、1株7,727円で売り手である証券会社Bのトレーダーと合意できました。ここで取引の約束が完了します。
ここからトヨタ株100株と、お金772,700円の交換はいつ行われるでしょうか。
それは2日後です。業界用語でこれをT+2と呼んでいます。
この2日間の間に、証券会社AとBのオペレーション部門は様々な業務を行います。そして2日後に、決済を行うのです。Aはトヨタ株100株を受け取り、お金772,700円を払います。
しかし、先の2つの例と異なり、実際の株券と現金を交換する訳ではありません。
今日、全ての金融商品の取引は電子化されており、誰が何をどれだけもっているか、全てを中央機関のデータベースで管理しています。
このデータベースから証券会社Aのトヨタ株の保有数を100増やし、お金の保有数を772,700円減らすのです。
これが決済の完了です。
商品や取引の種類によって異なりますが、基本的に金融商品の取引においては時差が2日間あるのです。
この2日間の間に、オペレーションの決済部門は、上述のデータベースを変更するための作業をしているのです。
決済とは”お金”と”もの”の交換を完了させること
金融商品においては、保有数を管理するデータベース上で”お金”と”もの”の増減を完了させること
また、取引の約束から決済までには時差があるということ
これがオペレーション決済部門の業務を理解する基礎です。
さて、
決済とは、金融商品においては、保有数を管理するデータベース上で”お金”と”もの”の増減を完了させること、ということがわかりました。また、取引の約束から決済までには時差があることもわかりました。
この取引の約束を業界用語で「約定(やくじょう)」と呼びます。
約定した日を「約定日(やくじょうび)」、「Trade Date」と呼びます。
前回、T+2という表現が出てきましたが、これはTrade Dateの2日後に決済をするよ、という意味です。
また、オペレーションの決済部門は2日間に、決済の準備、つまり中央機関のデータベース上の数字を増減させるための準備を行います。
このデータベース上の数字が証券及びお金の保有数を示しています。あなたの銀行口座の数字と同じです。
この数字をある証券会社が勝手に変えることができたら大変ですよね?
あなたも勝手に自分の口座の数字を増やすことはできたら、、笑
しかし、何度も繰り返しますが、決済とはそのデータベース上の数字を増減させることにより、お金とものの交換を完了させることです。
では、データベース上の数字を増減させるためには何が必要なのでしょうか。
お金とものの交換には必ず登場人物が2者以上必要です。(3者の場合は、クリアリングやトライパーティといった、もうすこし複雑な決済方法になりますので、ここでは割愛します。)
データベース上の数字を増減させる中でも、この2者の保有数の総数が変わることはありません。
一方の何かが増えれば、その分もう一方のそれが減るからです。
前述の例で言うと、証券会社Aのトヨタ株が100増えると同時に証券会社Bのトヨタ株は100減り、証券会社Aのお金が772,700円減ると同時に、証券会社Bのお金は772,700円増えるのです。
総数は変わってないですよね
そして、中央機関のデータベース上の数字を変化させるには、証券会社Aと証券会社Bが、お互いに同じ認識をもっているということを、証明する必要があります。
お互いに、総数が変わらない上で、それぞれの保有数が、どれだけ変わるかということをこの中央機関に送信します。
中央機関はそれをもって、データベース上の数字を増減させるのです。
これで決済完了です。
意外と単純ではないでしょうか?決済部門が行なっている決済とは、自社の保有数の変化の認識を、中央機関に送るという業務なのです。
さて、決済部門が行なっている決済とは、自社の保有数の変化の認識を、中央機関に送るという業務ということがわかりました。
この業務について詳しく書きたいと思います。
上記、“自社の保有数の変化の認識”を決済指図、またはインストラクションといいます。
このインストラクションには、以下の情報が含まれています
- 自己名
- 決済相手方
- 売り買いの別
- 銘柄名
- 銘柄数
- 1単位当たりの金額
- 総金額
- 約定日
- 決済日
- 自己の口座情報
- 相手方の口座情報
前項からの例でいうと、証券会社Aが送るインストラクションは以下のようになります。
- 自己名 :証券会社A
- 決済相手方 :証券会社B
- 売り買いの別 :買い
- 銘柄名 :トヨタ
- 銘柄数 :100
- 1単位当たりの金額:7727円
- 総金額 :772,700円
- 約定日 :2019年12月9日
- 決済日 :2019年12月11日
- 自己の口座情報 :口座番号XXXX
- 相手方の口座情報:口座番号YYYY
一方で証券会社Bも同じようにインストラクションを送ります。
- 自己名 :証券会社B
- 決済相手方 :証券会社A
- 売り買いの別 :売り
- 銘柄名 :トヨタ
- 銘柄数 :100
- 1単位当たりの金額:7727円
- 総金額 :772,700円
- 約定日 :2019年12月9日
- 決済日 :2019年12月11日
- 自己の口座情報 :口座番号YYYY
- 相手方の口座情報:口座番号XXXX
この時にBが出す内容は、Aのものと自己相手方及び売り買い情報が真逆になり、その他の項目は同じであるはずです。
中央機関は双方からのインストラクションを受け取り、それらを照合します。全ての情報が一致していれば、照合一致となり、データベース上の数字が変更されます。つまり決済完了です。
何か一致しない情報があれば(例えば、Aは1単位当たり7727円としているのに、Bは7726円としていた場合)、照合不一致として、未決済となります。
ほとんどの中央機関では照合結果を決済日以前に見ることができるので、オペレーションの決済部門ではインストラクションを送った後に、必ず照合一致になることを確認しています。もしも不一致の場合は、相違を決済日までに解消することに必死になります。
後に詳しくご説明するとして、ここでは割愛しますが、この不一致の原因は様々です。この不一致の原因を突き止め、時限までに直すスキルは決済部門においてとても重要です。
さて、決済部門はインストラクションを中央機関へ送り、相手方のインストラクションと情報が同じであること(=照合一致)を確認し、決済を完了させることがわかりました。
今回は、上記の中央機関にフォーカスを当てたいと思います。
中央機関って、どこの何でしょうか?
これはズバリ、取引する物によって変わります。
株や社債であれば、証券保管振替機構(ほふり)がこれにあたります。
また、国外のケースでは別で、各国がこの中央機関をもっています。
例えば、アメリカの株や社債はThe Depository Trust Company(DTC)、米国債はFederal Reserve Bank(Fed) です。
前項からの例でいうと、証券会社Aや証券会社Bは証券保管振替機構(ほふり)に証券口座をもっています。ほふりは証券会社Aや証券会社B、その他多くの証券会社の保有銘柄をデータベース上で管理しています。これを証券の保管といいます。
昔、証券がまだ実際の紙の券であった時代、それらを金庫で保管することと同義です。
ほふりはインストラクションを受け取り、照合一致となれば決済日にデータベース上で証券会社Aと証券会社Bの株保有数を更新します。これを振替といいます。
これと同時にお金の振替は日本銀行で行われます。各証券会社は同じく日本円の口座を日銀にもっており(正確には日銀に口座を開けている銀行に口座をもっています)、ほふりと日銀のデータベースは相互に情報をやりとりしています。
インストラクションがほふり上で一致すると決済日に、ほふりで銘柄の、日銀で日本円の振替が行われます。これが決済の完了です。
ここで、約定から決済までの大まかな流れを箇条書きにすると、以下のようになります。
- 約定
- 照合
- 清算
- 決済
約定とは取引の約束
照合とはインストラクションの内容一致の確認
決済とは保管期間のデータベース上での保有数の増減
では3番目の、清算って何でしょう?今回はこの清算についてご説明していきます。
まず、前回までの例ですと、登場人物は証券会社Aと証券会社Bの2者でした。このような2者間での取引、決済をバイラテラルといいます。このバイラテラルの場合ですと清算という業務は発生しません。ですので、前項までの流れが全てとなります。
しかし、実際には証券会社Aは、証券会社Bの他にも多くの相手と取引をしています。それは証券会社Bにとっても同じです。このように多くの取引参加者を助ける登場人物が、清算機関です。
各証券会社はこの清算機関と決済を行います。つまり証券会社Aは証券会社Bとではなく、清算機関と決済を行うのです。
繰り返しになりますが、証券会社Aは証券会社Bとだけでなく、証券会社C、D、E、・・・Zと多くの相手と取引をしているのです。その中には同じ銘柄を取引している場合もあれば買っている場合も売っている場合もあります。その全ての取引でおこる物とお金の動きを合計して(これを清算といいます)、決済するのです。
例えば、
という取引があったとします。
証券会社Aの立場から見ると、バイラテラルの場合、物とお金の動きは以下のようになります。
この場合、決済は3回に分けて行われ、証券会社Aはお金1,179,700円、トヨタ150株を決済日までに用意しておかなくてはいけません。
一方で、間に清算機関が入った場合、証券会社Aから見た物とお金の動きは以下のようになります。
いかがでしょうか!証券会社Aはトヨタ株を事前に用意する必要がなく、お金も546,720円しか用意しなくて良いのです。
この、物やお金を用意するということは、実は証券会社にとってコストになるのです。これは金融ビジネスを理解する上でとても重要な概念なのですが、ただ在庫を抱えていることはコストを払っていることと同義です。
よって、清算機関を通すことで、よりコストをかけないで取引することができるのです。