証券アナリスト[経済] 参考書の解説は不親切
メンバーシップ型とジョブ型、外資バックオフィスは?
働き方には大きく二種類、メンバーシップ型とジョブ型がある。一般的に日系企業は前者、外資系企業は後者であることが多い。
メンバーシップ型は、給与は低い、クビのリスクも低い、残業は多い。
ジョブ型は、給与は高い、クビのリスクも高い、残業は人それぞれ。
一方で外資の中でもオペレーションなどのバックオフィスはこれらの中間的な働き方が多いと実感する。これを給与、クビのリスク、残業という3つの観点から考えてみる。
まず、メンバーシップ型とは人に仕事を与え、会社として成果をあげていく働き方だ。メンバー、仲間として社員を迎え、共に働く。メリットとしては手厚いトレーニングがうけられることや、安定した雇用があげられる。仲間として迎えるのだから、しっかり鍛えて長く一緒に働こう、ということだ。デメリットとしては残業が多くなる傾向がある。自分の仕事が終わっても仲間がまだ残っているのだから自分も残って手伝う(又は帰り辛くただ残っている)となってしまう。
ジョブ型とは、仕事に人を振り分け、個人が与えられた仕事において成果をあげていく働き方だ。この仕事をできる人が必要なのでこの人を雇う、といったところで、入社にあたっては明確なジョブディスクリプション(入社後に担う役割)が伝えられる。メリットとしては自分の能力にあった給与がもらえる、残業がすくなくなるといった傾向がある。成果主義、成果に応じて報酬を出すし、成果さえ出していれば何時に帰ろうが構わない。デメリットとしては、解雇リスクが高い傾向にある。成果を出せなかった時はもちろんのこと、その業務がなくなりばその人もいらなくなることもある。業務のオフショアリング(例えばインドなど、国内よりも雇用コストが安い場所に業務を移動させること)や、業務のオートメーション化などによって、割り当てられた業務がなくなるといったことは珍しいことではない。
日系企業は雇用が安定していて、研修がしっかりしている反面、残業が多く給与も比較的低いのはメンバーシップ型だからで、外資系企業は給与が比較的高い反面、クビのリスクが多いのはジョブ型だからだと言える。
では外資の中でもオペレーションのようなバックオフィスはどうか。
観点1:給与
ジョブ型の報酬制度は成果主義なので、どれだけ成果を出しているかで額が決まる。しかし、バックオフィスにおいてこの成果は非常に見えにくい。営業やトレーダーのように数字で収益が見えない分、何をもって成果とするかということが難しい。バックオフィスの成果とは?については別記事で詳しく考察するとして、ここではチームやそのマネージャーにより、自分の成果と見なされる部分が変わることに触れておきたい。フロントオフィスのように年によって給与が乱高下することはなく、景気がいい時も悪い時も、給与額の年次での振れ幅は狭い傾向にある。
観点2:クビのリスク
個人の成果が見えにくいということは、突出して成果を出せていないと見られることも少ない。よほどの大きなミスを何度も起こさない限りいきなりクビとはならない。ただし上述のように業務そのものがなくなってしまう可能性もあるので、日系企業に比べるとクビのリスクが大きいのも実情です。
観点3:残業
もちろん入社時にはジョブディスクリプションが伝えられ、自分の役割が明確になる。しかしそれは入るチームとしての責務であることが多い。チームとして、これを達成してください、ということだ。
オペレーションは膨大な数の取引に対して正確に且つ時限内に処理をしなければならない。個人の能力が突出していたとしても、量が多いととても一人では対応できない。ある程度の担当分けはあるものの、その担当者のキャパシティーを超えた時や、そもそもその担当者がいない時に、業務を止めるということは許さない。その為、チームで協力して業務を回していく必要がある。
自分の仕事=チームの仕事といった感覚なので、たとえ自分に割り当てられた仕事が終わったとしてもチーム内で助けを必要としているメンバーがいれば、積極的に仕事を引き受けるといった傾向が多い。
これらのように、日系ほど安定はしなくてよいが給与はもっと欲しいと考える人が日系からの外資に転職する傾向が多い。
トレーニングとOJT
バックオフィスのような自分たちで直接収益を生み出せないような部署では、自分がオフィスにいるだけでコストが発生していることになります。
オペレーションのITリテラシー(2)
前回に引き続き各用語の解説をしていきたいと思います。また、余談になりますが気になること、わからないことがあればその都度自分でググることをお勧めします。これは勉強にしても、日々の業務にしても、出会った”?”(疑問)をその都度”!”(解決)に変えている人とそうでない人では、長い目で見た時にとても大きな差になります。
ではいきましょう。
サーバー
情報を与えるコンピューター。我々が普段見ているWEBサイトやシステムは様々な情報を見せてくれます。このような情報を送ってきてくれているのがサーバーというコンピューター。例えばGoogle上で特定のワードを入力し検索ボタンをクリックすると、サーバーに向かってそのワードの情報をくれ、というリクエストが送られて、それに対してサーバーが適切な情報を与えてくれます。(これをレスポンスという)
コード
予め決めておくシステムへの命令。例えばスイッチをオンにしたら電気をつける。オフにしたら電気を消す。スイッチがオンの状態でも一時間以上スイッチが触られなければ電気を消す。など、条件と結果の組み合わせでシステムがどう動くかを定めているもの。
プログラム言語
システムへの命令をする上で必要な、人間の言葉に寄せた、コンピューターの言語。0はオフ、1はオン、といったようにコンピューターは0と1の組み合わせで動く。(例えば、000111000はSOS、つまり救難信号のこと。SOSはなにかの略ではない。)莫大な0と1の組み合わせでシステムへの命令を記録することは膨大な労力が必要となるので、特定の人間の言葉を0と1の組み合わせに結びつけ、コンピューター上で使用可能にしたもの。
マクロ/VBA
Excelを使う上で必ず登場するマクロ。マイクロソフトが開発した簡易的なプログラミング言語ビジュアルベーシックを用いて、マイクロソフトのアプリケーション内で動く。例えばExcel上でボタンを作り、そこにマクロを登録しMsgbox(“Hello world”)と記載すると、ポップアップが現れる。単純で毎回繰り返す作業であればマクロを作成することで自動化することができる。
エンドユーザーコンピューティング。エンドユーザーとはシステムを使う人。システムは基本的にIT部門が作り、その他の部署が使う。しかし、オペレーション部門などのユーザーがExcelなどを使って作り込んだ複雑なマクロは、ITのようなプロがサポートしない中で使用していかなければならないので、不具合や改修の面でリスクが大きい。また、作った人が会社を辞めると、その仕組みをわかる人が1人もいないが、使わないわけにはいかないといった状況になる。このようなリスクをEUCリスクと呼ぶ。
UAT
システムを新しく開発する際、あるいは改修する際、問題なく当初予定通りに稼働するかどうかテストを行う必要がある。開発者側でテストを行った後、そのシステムを使用するユーザーがテスト環境下でシステムを使って、問題ないことを確認する。これをUAT(User Acceptance Test)という。オペレーションのシステム開発プロジェクトではこのUATを無事終えることでIT側に稼働承認(Sign off)を行い、稼働される。(Release)。余談だがシステムのリリースは週末に行われることが多く、なにかバグがあると月曜日に会社にきて大忙しとなる。また、グローバルで最も朝が早い日本が被害を受けることが多い。バグを日本が見つけ、大急ぎで修正し、他の国のビジネスがスタートする迄には治っている、なんてことも多い。
オペレーションのITリテラシー(1)
オペレーション、バックオフィス、業務部、などの部門はITと関わらずしてはいられない部署です。業務をする上でたくさんのシステムを使いこなし、それらの改修や開発に携わる必要があるからです。
オペレーションはフロントが約定した取引を決済することが使命です。決済の記事でご説明した通り、現在ものとお金の公開は全てデータベース上での記帳で済まされており、そのためには限られた時間内に、指定された正しいデータを送受信することが必要です。
このデータを扱う上でシステムの使用は必要不可欠、また改修や開発も業務フローに明るいオペレーションの力か必要不可欠なのです。
にもかかわらず、オペレーション部門に所属する、あるいは所属しようとする人の中には、システムはITやテクノロジー部門がみてくれるから、ITリテラシーは必要ないと思っている方が少なくない印象をうけます。
いえいえ、オペレーションほとシステムやデータ、テクノロジーに関する知識が必要とされる部署はありません。もちろん、プログラム言語に精通する必要や、コードを書ける必要はないですが、プログラム言語とはどういう仕組みなのか、コードはどのように書かれているのか、を理解することは大切です。
このような知識をもつだけでオペレーション、業務部の人材は市場価値を上げることができるでしょう。
この記事では、オペレーション部門における最低限知っておくべきITリテラシーについて使用される用語の面から説明します。
IT
まずはこのITとは何か、インフォメーションテクノロジー(Information Technology)の略で本来は情報技術という意味です。
普段見ているWebページや、システム画面は、それを使うユーザーの為にコンピュータがデータを見易く変換してくれています。全てのデータは0と1で構成されているのですが、そのまま見ても何のことかわからないですよね。それをブラウザを通すことによって人間が認識することの画面が出力されるのです。ブラウザにはインターネットエクスプローラ(IE)、edge、Chrome、Safari、Firefoxなどがあります。そしてこの画面をユーザーインターフェイス(UI)と言います。
システムなどは全てコードで書かれており、そのコードの羅列された画面をコードユーザーインターフェイス(CUI)、普段システムを使う人が見るような図形や画像で構成された画面をグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)といいます。
データベース/SQL
データを保存する場所をデータベースとよび、システムが何か処理するたびにこのデータベースを参照、上書きします。システム上で100万円をA口座からB口座に送金するという処理をすると、システムがデータベースを、参照しA口座に残高があることを確認、その後A口座の残高を上書き、B口座の残高を上書きます。SQLとはこのデータベース上のデータを出力、編集するためのプログラム言語です。A口座〜Z口座のXX日の残高を確認する必要がある時、このような機能を使って出力することができます。
一括処理のことです。上記の口座振替の例ですと、A口座からB口座への送金が、送金ボタンを押した瞬間にデータベースが書き変わることをオンライン処理、リアルタイム処理といいます。反対に、時間を区切ってD口座からE口座への送金など、ほかの口座振替とまとめて一括でデータベースを上書きすることをバッチ処理といいます。金融機関では大量のデータを処理する必要があるので、日中のオンライン処理と、夜間のバッチ処理を使い分けています。
長くなってしまいましたので、今回はここまで。次回は以下の用語について書きたいと思います。
サーバー
コード
プログラム言語
マクロ
SIT
UAT
CSRIT
英語力は思ったより必要ない?外資金融オペレーション
この記事は、外資で働きたいけれども、英語力にそこまで自信がない方に向けて書いています。私自身も海外留学経験がなく英語は学校の勉強くらいしかしていなかったので、入る前は正直不安でした。実際に働いてみて感じたことを、正直に書いてみます。外銀のオペレーションならではの部分もあるとは思いますが、他業種の外資でも共通するところはあると思いますので、ぜひ読んでみて下さい。
ではさっそく、
「外銀のオペレーション部門は英語は必須!」とよく聞きますが、実際どれくらい必要なのでしょうか。
TOEIC800点以上や、海外留学経験あり、でないといけないと目にしたこともありますが、あんまりあてにならないです。
もちろん、メールやドキュメントはほとんどが英語なのでリーディングができないと厳しいです。また、会話も少なからずあるので、シンプルなフレーズもちんぷんかんぷんという状態では厳しいと思います。
外資の中には、ネイティブやネイティブレベルの帰国子女、留学経験豊富な方々が多い中、自分のように日系から転職してきた方も意外と多いと感じました。
そのような中で求められる英語力とは、
答えは、、
目指すポジションによる。です
まずポジションの説明から。
外銀オペレーションでは、ざっくり以下3つのポジションに分かれます。
- プレイヤー
- マネージャー
- マネジメント
1.プレイヤーはタイトルで言えばアソシエイト、アナリスト、オフィサーなどが多いですが、所謂タスクをこなす人たちです。タスクは日々行うデイリータスクや、プロジェクトに関わるタスクもあります。これらのポジションで求められる英語力は最初に書いたような最低限のレベルです。メールの読み書きができる、英語で書かれたドキュメントを理解することができる、単発の英語での質問ができる、などです。読み書きにおいては、最初は苦労するかもしれませんが、毎日行うものなのですぐに慣れます。
2.マネージャーは所謂管理職。タイトルでいえばアシスタントヴァイスプレジデント(AVP)、ヴァイスプレジデント(VP)などです。このポジションはプレイヤー達を部下におくチームを持っています。日々のデイリータスクの割合は少なくなるかわりに、他チームとのマネージャーとのミーティングや、上司であるマネジメントへのレポートなどが必要となってきます。ここで重要なのは、他チームやマネジメントは日本国内にいるとは限らないということです。海外とやり取りする中、正確な情報を受信、発信する必要があるため、読み書きに加えて英語での会話する力も必須となってきます。
3.マネジメントは部長以上のクラス、取締役などビジネスの決定権をもつポジションです。ディレクターやマネージングディレクター(MD)がそれにあたります。このポジションになるとほぼネイティブレベルの英語スキルを持った方々しかいません。通常の会話に加えて、ネゴシエーション能力も必要になってきます。
3つのポジションに分かて解説しましたが、新卒や日系からの転職で最初に担うのはプレイヤーであることが多いかと思います。日々の中で英語スキルを磨き、ポジションが上がるにつれてさらに磨きがかかる、というようにプラスのサイクルに身を置くことが重要ではないかと考えます。
~番外編~[外資の意外な英語事情]
- 欧州系は米系に比べて英語スキルがなくとも認められやすい
- 帰国子女も意外と語彙力や文法力は低い
- カタカナ英語の人が多い。でもめっちゃ伝わる
- 色んな訛りの英語を聞くのに苦労するので、ネイティブの英語が楽に感じるようになる
- 飲み会では英語と日本語が混ざって会話する
- 外国人はほぼ全員日本語話せる
オペレーションの基本【決済】をわかりやすく解説
外資金融オペレーションについて調べると、必ずといってもおかしくないほど出てくる業務が “決済” ではないでしょうか。
でも、決済って何でしょうか? オペレーションの決済部門って何をしているのでしょうか?
日銀の公表資料によると
私たちは、日々、様々な経済取引(多くの場合、「お金」と「もの」や「サービス」との交換を約束し合うこと)を行っています。取引を行うと、お金を支払ったり品物等を引き渡したりする義務(取引の相手側からみればそれらを受け取る権利)が生じます。これらの義務を債務と呼び、相手方の権利を債権と呼びます。決済とは、一般的には、これら債権・債務のうちお金に関するものについて、実際にお金の受払をして債権・債務を解消することをいいます
と、あります。
、、、ん? よくわからないですね(笑)
実際にお金の受払をして債権・債務を解消することという最後の部分を噛み砕くと、
”お金”と”もの”の交換を完了させることと言い換えることができます。
”もの” に関しては、コンビニのおにぎりでも、マンションのような不動産でも、株や債券などの金融商品でも、お金によって得られる対価であれば何でも当てはまります。
私たちは日常生活で、多くの経済活動を行っています。経済活動とはお金を払って、ものを受け取る。又はものを差し出してお金を受け取ることです。
この時の過程において、取引の約束をする行為と、決済が必ずおこります。
ここで大切なポイントは、この2つの行為の間には時差がある、というところです。
どういうことでしょうか?
例えば、コンビニで缶コーヒーを買う場合、レジに商品を持っていき、バーコードを読み込み、値段が表示され、お金を払い、缶コーヒーを受け取ります。
この商品をレジに持って行った段階で、行為を取引を約束する行為とします。そして実際にお金を払い缶コーヒーが自分のものになった段階で決済が完了します。
このケースですと、取引の約束と決済が“ほぼ”同時に行われるため、あまり時差を実感しないかもしれません。
ではカフェでコーヒーを飲む場合はどうでしょうか。
店に入り、席につきます。店員さんが来て、コーヒーを注文します。この段階で取引の約束が行われたといえます。コーヒーが席まで運ばれ、リラックスしながら飲み、席をたちます。レジに行きお会計をします。ここでお金を払い、決済完了です。
ここではカフェの滞在時間分、時差がありますね。
一般的な経済行為では、この時差が“ほぼ”ないか、あっても数分程度なので、実感することはないように思えます。
では、金融商品ではどうでしょうか。
とある証券会社Aのトレーダーがトヨタの株を100株購入したいとします。
注文を市場に出すと、1株7,727円で売り手である証券会社Bのトレーダーと合意できました。ここで取引の約束が完了します。
ここからトヨタ株100株と、お金772,700円の交換はいつ行われるでしょうか。
それは2日後です。業界用語でこれをT+2と呼んでいます。
この2日間の間に、証券会社AとBのオペレーション部門は様々な業務を行います。そして2日後に、決済を行うのです。Aはトヨタ株100株を受け取り、お金772,700円を払います。
しかし、先の2つの例と異なり、実際の株券と現金を交換する訳ではありません。
今日、全ての金融商品の取引は電子化されており、誰が何をどれだけもっているか、全てを中央機関のデータベースで管理しています。
このデータベースから証券会社Aのトヨタ株の保有数を100増やし、お金の保有数を772,700円減らすのです。
これが決済の完了です。
商品や取引の種類によって異なりますが、基本的に金融商品の取引においては時差が2日間あるのです。
この2日間の間に、オペレーションの決済部門は、上述のデータベースを変更するための作業をしているのです。
決済とは”お金”と”もの”の交換を完了させること
金融商品においては、保有数を管理するデータベース上で”お金”と”もの”の増減を完了させること
また、取引の約束から決済までには時差があるということ
これがオペレーション決済部門の業務を理解する基礎です。
さて、
決済とは、金融商品においては、保有数を管理するデータベース上で”お金”と”もの”の増減を完了させること、ということがわかりました。また、取引の約束から決済までには時差があることもわかりました。
この取引の約束を業界用語で「約定(やくじょう)」と呼びます。
約定した日を「約定日(やくじょうび)」、「Trade Date」と呼びます。
前回、T+2という表現が出てきましたが、これはTrade Dateの2日後に決済をするよ、という意味です。
また、オペレーションの決済部門は2日間に、決済の準備、つまり中央機関のデータベース上の数字を増減させるための準備を行います。
このデータベース上の数字が証券及びお金の保有数を示しています。あなたの銀行口座の数字と同じです。
この数字をある証券会社が勝手に変えることができたら大変ですよね?
あなたも勝手に自分の口座の数字を増やすことはできたら、、笑
しかし、何度も繰り返しますが、決済とはそのデータベース上の数字を増減させることにより、お金とものの交換を完了させることです。
では、データベース上の数字を増減させるためには何が必要なのでしょうか。
お金とものの交換には必ず登場人物が2者以上必要です。(3者の場合は、クリアリングやトライパーティといった、もうすこし複雑な決済方法になりますので、ここでは割愛します。)
データベース上の数字を増減させる中でも、この2者の保有数の総数が変わることはありません。
一方の何かが増えれば、その分もう一方のそれが減るからです。
前述の例で言うと、証券会社Aのトヨタ株が100増えると同時に証券会社Bのトヨタ株は100減り、証券会社Aのお金が772,700円減ると同時に、証券会社Bのお金は772,700円増えるのです。
総数は変わってないですよね
そして、中央機関のデータベース上の数字を変化させるには、証券会社Aと証券会社Bが、お互いに同じ認識をもっているということを、証明する必要があります。
お互いに、総数が変わらない上で、それぞれの保有数が、どれだけ変わるかということをこの中央機関に送信します。
中央機関はそれをもって、データベース上の数字を増減させるのです。
これで決済完了です。
意外と単純ではないでしょうか?決済部門が行なっている決済とは、自社の保有数の変化の認識を、中央機関に送るという業務なのです。
さて、決済部門が行なっている決済とは、自社の保有数の変化の認識を、中央機関に送るという業務ということがわかりました。
この業務について詳しく書きたいと思います。
上記、“自社の保有数の変化の認識”を決済指図、またはインストラクションといいます。
このインストラクションには、以下の情報が含まれています
- 自己名
- 決済相手方
- 売り買いの別
- 銘柄名
- 銘柄数
- 1単位当たりの金額
- 総金額
- 約定日
- 決済日
- 自己の口座情報
- 相手方の口座情報
前項からの例でいうと、証券会社Aが送るインストラクションは以下のようになります。
- 自己名 :証券会社A
- 決済相手方 :証券会社B
- 売り買いの別 :買い
- 銘柄名 :トヨタ
- 銘柄数 :100
- 1単位当たりの金額:7727円
- 総金額 :772,700円
- 約定日 :2019年12月9日
- 決済日 :2019年12月11日
- 自己の口座情報 :口座番号XXXX
- 相手方の口座情報:口座番号YYYY
一方で証券会社Bも同じようにインストラクションを送ります。
- 自己名 :証券会社B
- 決済相手方 :証券会社A
- 売り買いの別 :売り
- 銘柄名 :トヨタ
- 銘柄数 :100
- 1単位当たりの金額:7727円
- 総金額 :772,700円
- 約定日 :2019年12月9日
- 決済日 :2019年12月11日
- 自己の口座情報 :口座番号YYYY
- 相手方の口座情報:口座番号XXXX
この時にBが出す内容は、Aのものと自己相手方及び売り買い情報が真逆になり、その他の項目は同じであるはずです。
中央機関は双方からのインストラクションを受け取り、それらを照合します。全ての情報が一致していれば、照合一致となり、データベース上の数字が変更されます。つまり決済完了です。
何か一致しない情報があれば(例えば、Aは1単位当たり7727円としているのに、Bは7726円としていた場合)、照合不一致として、未決済となります。
ほとんどの中央機関では照合結果を決済日以前に見ることができるので、オペレーションの決済部門ではインストラクションを送った後に、必ず照合一致になることを確認しています。もしも不一致の場合は、相違を決済日までに解消することに必死になります。
後に詳しくご説明するとして、ここでは割愛しますが、この不一致の原因は様々です。この不一致の原因を突き止め、時限までに直すスキルは決済部門においてとても重要です。
さて、決済部門はインストラクションを中央機関へ送り、相手方のインストラクションと情報が同じであること(=照合一致)を確認し、決済を完了させることがわかりました。
今回は、上記の中央機関にフォーカスを当てたいと思います。
中央機関って、どこの何でしょうか?
これはズバリ、取引する物によって変わります。
株や社債であれば、証券保管振替機構(ほふり)がこれにあたります。
また、国外のケースでは別で、各国がこの中央機関をもっています。
例えば、アメリカの株や社債はThe Depository Trust Company(DTC)、米国債はFederal Reserve Bank(Fed) です。
前項からの例でいうと、証券会社Aや証券会社Bは証券保管振替機構(ほふり)に証券口座をもっています。ほふりは証券会社Aや証券会社B、その他多くの証券会社の保有銘柄をデータベース上で管理しています。これを証券の保管といいます。
昔、証券がまだ実際の紙の券であった時代、それらを金庫で保管することと同義です。
ほふりはインストラクションを受け取り、照合一致となれば決済日にデータベース上で証券会社Aと証券会社Bの株保有数を更新します。これを振替といいます。
これと同時にお金の振替は日本銀行で行われます。各証券会社は同じく日本円の口座を日銀にもっており(正確には日銀に口座を開けている銀行に口座をもっています)、ほふりと日銀のデータベースは相互に情報をやりとりしています。
インストラクションがほふり上で一致すると決済日に、ほふりで銘柄の、日銀で日本円の振替が行われます。これが決済の完了です。
ここで、約定から決済までの大まかな流れを箇条書きにすると、以下のようになります。
- 約定
- 照合
- 清算
- 決済
約定とは取引の約束
照合とはインストラクションの内容一致の確認
決済とは保管期間のデータベース上での保有数の増減
では3番目の、清算って何でしょう?今回はこの清算についてご説明していきます。
まず、前回までの例ですと、登場人物は証券会社Aと証券会社Bの2者でした。このような2者間での取引、決済をバイラテラルといいます。このバイラテラルの場合ですと清算という業務は発生しません。ですので、前項までの流れが全てとなります。
しかし、実際には証券会社Aは、証券会社Bの他にも多くの相手と取引をしています。それは証券会社Bにとっても同じです。このように多くの取引参加者を助ける登場人物が、清算機関です。
各証券会社はこの清算機関と決済を行います。つまり証券会社Aは証券会社Bとではなく、清算機関と決済を行うのです。
繰り返しになりますが、証券会社Aは証券会社Bとだけでなく、証券会社C、D、E、・・・Zと多くの相手と取引をしているのです。その中には同じ銘柄を取引している場合もあれば買っている場合も売っている場合もあります。その全ての取引でおこる物とお金の動きを合計して(これを清算といいます)、決済するのです。
例えば、
という取引があったとします。
証券会社Aの立場から見ると、バイラテラルの場合、物とお金の動きは以下のようになります。
この場合、決済は3回に分けて行われ、証券会社Aはお金1,179,700円、トヨタ150株を決済日までに用意しておかなくてはいけません。
一方で、間に清算機関が入った場合、証券会社Aから見た物とお金の動きは以下のようになります。
いかがでしょうか!証券会社Aはトヨタ株を事前に用意する必要がなく、お金も546,720円しか用意しなくて良いのです。
この、物やお金を用意するということは、実は証券会社にとってコストになるのです。これは金融ビジネスを理解する上でとても重要な概念なのですが、ただ在庫を抱えていることはコストを払っていることと同義です。
よって、清算機関を通すことで、よりコストをかけないで取引することができるのです。